以前に東大の加藤さんから、小石川植物園の「アテツマンサク」の写真を送っていただいた。岡山県の阿哲地方にだけ自生する日本の固有種である。中央部が赤でなく黄色いのが特徴で、それだけに黄色がよく目立つ満作である。
3月はじめのNHKのラジオ放送で、岡山県阿哲郡の大佐山のアテツマンサクが花を開き始め、3月中旬には山一面が黄色くなると放送していたのを聞いて、どうしても行きたくなった。幸い広島方面に出張があったので、帰りに寄ることにした。中国地方の瀬戸内海側は交通の便がとても良いが、一歩山間にはいると惨めなものである。新見から大佐山のある刑部駅に行く列車は、一日に8本しかない。特に昼間は3時間に1本である。不便をかこちながらも、刑部駅から大佐タクシーに乗って大佐山中腹の「アテツマンサクの森」に辿り着いた。
残念な事に、今年は「満作」でなく「不作」の年らしく、花はチラホラ咲きで、全山黄色一色とは行かなかった。それでも、満作の花の黄色は期待通り美しく、所々に一杯に花を付けた木があって、見とれ、堪能した。写真で見た珍しい花の、その自生地に来ているのだという感覚に、年甲斐もなく感動を憶えていた。これも、アテツマンサクが人里離れた不便な土地にあるからかも知れない。
大佐山は、988mの独立峰で、360度の展望が楽しめる。この季節には、雪をかぶった大山が遠望できる。その展望の中を飛翔するために、夏にはパラグライダーを楽しむ若者でこの山は一杯になるそうである。山頂には鉄塔があって、ここに登れば1000mを超えることになる。パラグライダーの出発点から下を見ると目が眩む。私にはとてもパラグライダーはやれそうにない。
学名はHamamelis japonica var. bitchuensisで、マンサク科マンサク属である。bitchuensisは、阿哲郡を含む「備中地方」をさす。なお、四国の愛媛県にも自生地がある。